暴言を繰り返す妻の慰謝料請求を大幅に減額し離婚した事例

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

ご相談者Xさん (福岡県古賀市)
20代男性
職業:学生
世帯年収:0万円
婚姻期間:1年
解決までの期間:10ヶ月
解決方法:調停離婚
子どもあり
離婚を求められた

相手:30代無職

※実際の事例を題材としておりますが、事件の特定ができないようにイニシャル及び内容を編集しております。
なお、あくまで参考例であり、事案によって解決内容は異なります。

サポート無 サポート有 減額利益
離婚 不成立 成立
慰謝料 300万円 111万円 189万円
財産分与

 

 

状況

Xさんは、Yさんと結婚したものの、Yさんが出産の前後で日常的に暴言を言うようになりました。耐えかねたXさんは、同居期間が1年も経過しない時期に自宅を飛び出さざるを得ませんでした。

Xさんは、別居を開始するまで、何度も話し合いの機会を設けようとしました。しかしながら、YさんはXさんの話に耳を傾けませんでした。別居直後も、話し合いの機会を設けようとしましたが、結局実現することができませんでした。

そこで、Xさんは、今後のことについて、弁護士に相談しました。

 

弁護士の関わり

Xさんは、Yさんとの離婚を決意しました。そこで、弁護士名義で協議の申し入れをする予定でしたが、ちょうどYさんの代理人から協議の申入書がXさんに届きました。

そこには、XさんがYさんを置いて別居を開始したことは悪意の遺棄に当たると主張されていました。

Xさんからすれば、Yさんの言い分は実態と大きく異なるものでした。そこで、同居期間中に起こった出来事の詳細を伝えました。

ところが、Yさんは事実関係を全面的に否認するとともに、慰謝料を請求してきました。また、Yさんは、独身時代に貯めた貯金を夫婦の共同生活に充てていたため、離婚の際にこれを返還すべきと主張してきました。

この時点で、もはや任意の協議は困難となったため、話し合いは調停へ移行しました。

やりとりをしている中、Yさんがかなり感情的になっていることがうかがわれました。もっとも、Yさん側の主張は法律上認められるところではありませんでした。こちらとしては断固として応じない姿勢を見せました。

また、Yさんが感情的になっている要因のひとつとして、Xさんがお子さんの面会交流を求めてこないことにもありました。そこで、面会交流を申し入れ、Xさんがお子さんのことを気にかけていることをしっかりとYさんに認識してもらいました。

加えて、収入がない以上養育費の支払義務は発生しない状況でしたが、当面、できる限りのお子さんへのサポートとして、一定額の養育費相当額を支払うこととしました。

こうして、財産分与としてXさんが支払うべきところは支払うこととし、最終的には大幅に相手の請求を減額させたうえで解決に至りました。

法的問題

本件では、①悪意の遺棄、②結婚後に切り崩した独身時の預貯金は離婚時に返還すべきかが問題として挙げられます。

①悪意の遺棄について

「悪意の遺棄」とは、正当な理由なく、夫婦の同居義務、協力義務、扶助義務に違反する行為をいいます。

ここで、「悪意」とは、単に遺棄の事実ないし結果の発生を認識しているだけでは足りず、夫婦関係の廃絶を企図し、またはこれを容認する意思と考えられています。

わかりやすくいうと、単に別居するだけではなく、夫婦関係が破壊されてしまうことを狙ってわざと相手を陥れるような意思を有していて初めて「悪意の遺棄」と評価されます。

本件のように、Xさんは、Yさんからの暴言をきっかけとして別居を開始したこと、また、夫婦関係をどうするか話し合いの機会を設けようとしていたことから、上記のような「悪意」は認めらないといえます。

②結婚後に切り崩した独身時の預貯金について

この問題は、財産分与に関係します。すなわち、財産分与の対象は、婚姻後別居するまでの間に構築された財産です。他方、婚姻前の財産は各人固有の財産であって手を付けられない、逆にいえば、手を付けたのであれば、減少分はその補填をする義務が生じるのではないか、という疑問が生じます。

この点について裁判所は、原則として返還を認めない傾向にあります。

なぜなら、結婚をした夫婦は、独身時の預貯金を生活に充てることはよくあることですから、生活に必要な範囲で切り崩された部分は、財産の特有性を失うと考える方が実態に即している、と評価するためです。

婚姻関係に問題がない間は、独身時のお金を出した方も、それを返してもらうことを前提として支出していないことがほとんどだと思います。にもかかわらず、離婚の話になったとたん、突然返還義務が生じるものとしてしまうと、これまでの夫婦の実態に反するばかりでなく、徒に法律関係を複雑化することにもなります。

 

補足

離婚訴訟において、裁判所が離婚を認めるのは、民法所定の離婚原因がある場合です。

離婚原因について、くわしくはこちらをごらんください。

不貞については、確たる証拠が得られたとしても、不合理な弁解をする当事者は少なくありません。本件についても、調査会社の協力のもと、確実な証拠を得ることはできたのですが、Yさんは最後まで自身の不貞を認めませんでした。

このような場合は、裁判手続きを念頭に置きながら、相手への追及を緩めることなく交渉をしていく必要があります。その結果、Yさんに一切お金を支払うことなく、解決をすることができました。