DV事件のポイント

  
弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

DV事件は、被害者の方の安全確保が最優先です。

そのため、通常の離婚事件とはやるべきことがまったく異なります。

DV事件の流れについて、解説します。

DV事件の流れ

DV事件の流れは次のとおりです。
DV事件の流れ

段階ごとにポイントを詳しく紹介していきます。

 

① 相談受付・受任段階

相談者の希望を確認

DV被害者である相談者の方が何を希望しているのか、まずは意志を確認することから始まります。

相談者の方は、ひとまず別居したいのか、安全を確保したいのか、離婚したいのか、離婚の条件として希望するのはどんなことか、等について、弁護士に率直におっしゃってください。

 

 治療や適切なケア

相談者の方が怪我をしている場合、まずは病院での治療が必要です。

ところが、加害者の健康保険証で受診や治療を行った場合、追って医療費通知が加害者に通知され、避難先に近い医療機関が知られてしまうおそれがあります。

そこで、当事務所では、避難先からは遠い医療機関で受診する、早々に独立した世帯として新たに国民健康保険に加入すること等を助言しています。

 

証拠の保存

DV被害者の方が保護命令を申し立てたり、加害者に対して離婚や慰謝料を請求する場合、加害者がDVの事実を否定してくることが考えられます。

そこで、怪我の写真、加害者からの脅迫文言が記載されたメール、病院の診断書等を証拠として保存しておくことがポイントとなります。

 

② 安全の確保

DV被害者の安全確保

DV事件は命にかかわる問題です。

そこで、まずは何より、被害者である相談者の方の安全確保が最優先事項です。

被害者が現在、加害者と同居しており、近日中に別居したいと考えている場合、安全な避難方法、避難先、必要な物の持ち出し等を助言します。

また、相談者の方から、具体的な暴力の状況をお聴きして、危険性が高く、避難して安全を確保することが必要であれば、配偶者暴力相談支援センター等をご紹介します。

 

加害者からの追跡防止策
捜索願への対応策

加害者が避難している被害者について、警察へ捜索願を出すことがあります。

そこで、当事務所は、加害者から追跡が予想される場合、警察機関と連携し、捜索願を受理しないよう要請します。

なお、保護命令が発令された場合も同様に、警察機関は捜索願を受理しないことになっています。

 

住民票入手への対応策

住民票のイメージイラスト加害者は、被害者の住民票を謄写して、居場所を突き止める場合があります。

そこで、役場と連携し、DV加害者やその代理人による住民票や戸籍の附票の閲覧・謄写を制限する措置を取ることが可能です。

この措置の期間は1年ですが、延長が可能です。

ただし、第三者からの不正な請求等により、住民票上の住所が知られてしまう可能性もあります。

そのため、少々不便ではありますが、避難場所を秘匿を徹底したければ、住民票を移動しないということも考えられます。

 

その他

さらに、学校や福祉事務所等の関係機関と連携して、被害者のお子さんの転校、被害者自の就職などの経済的自立、居住場所の確保等、多岐にわたる問題を十分サポートする体制を整えるよう努めます。

 

婚姻費用や児童手当等の請求

被害者の安全の確保と並行して、生活費(婚姻費用といいます。)の請求を行います。

夫婦は、たとえ別居していても、他方を扶養する義務がありますので、双方の収入に応じた婚姻費用を請求する権利があるのです。

当事務所では、弁護士が直接加害者に対して、内容証明郵便等の文書で婚姻費用の支払いを求めますので、被害者の方は相手と接触することはありません。

また、お子さんがいる場合、児童手当など、監護者が受け取ることができる諸手当についても、速やかに手続を行なって受給権者の変更を行います。

 

③ 保護命令の申立て

保護命令の種類

保護命令は、裁判所から加害者に対して出されるもので、被害者への接近禁止命令自宅からの退去命令電話等の禁止命令被害者の子への接近禁止命令被害者の親族等への接近禁止命令があります。

これらを事案に即して使い分けて、申し立てることがポイントとなります。

 

被害者への接近禁止命令

被害者への身辺へのつきまといや、被害者の住居、勤務先等付近での徘徊を禁止するものです。

この命令の効力は、6か月間です。

 

退去命令

加害者を自宅から立ち退かせるものです。

例えば、自分や子どもの荷物を持ち出したいけど、暴力夫が怖くてできない、といった場面で利用します。

この命令の効力は、2か月間です。

 

電話等の禁止命令

これは、加害者が以下の行為をすることを禁止するものです。

  • 面会を要求すること
  • 被害者の行動を監視していると思わせることを告げること
  • 無言電話をかけること
  • 緊急やむを得ない場合を除いて、連続して電話やFAX、メールをすること
  • 緊急やむを得ない場合を除いて、午後10時から午前6時までの間に電話やFAXをすること
  • 汚物や動物の死体等を送付することこの命令は、接近禁止命令が発令されていることが条件で、効力は、接近禁止命令の有効期間が満了する日までです。

 

被害者の子への接近禁止命令

この命令は、被害者が監護している子どもを加害者が連れ去ろうとしているような場合に申し立てるものです。

接近禁止命令が発令されていることが条件で、効力は、接近禁止命令の有効期間が満了する日までです。

 

被害者の親族等への接近禁止命令

この命令は、加害者が被害者の実家や、職場に押し掛けて迷惑をかけることなどが予想される場合に申し立てるものです。

接近禁止命令が発令されていることが条件で、効力は、接近禁止命令の有効期間が満了する日までです。

 

保護命令の形式的要件

裁判所のイラスト裁判所への申立てに際し、次のいずれかが必要となります。

  • ① 申立ての前に、配偶者暴力相談支援センター又は警察に対して、相談し、援助や保護を求めていること
  • ② 公証人面前宣誓供述書(申立人のDVの状況等の供述を記載して公証人の認証を受けた書面)を申立書に添付していること

 

通常は、①の方法が取られますが、この場合、申立書には、次の事項を記載します。

  • 配偶者暴力相談支援センター又は警察の名称

※「福岡県配偶者暴力相談支援センター」「博多警察署生活安全課」といった程度の記載で足ります。

  • 相談し、又は援助若しくは保護を求めた日時及び場所・相談又は援助若しくは保護の内容

※「夫から受けた暴力」などの簡潔な記載で足ります。

  • 相談又は申立人の求めに対して執られた措置の内容

※「一時保護」、「保護命令についての情報提供」などの記載で足ります。

 

 

申立ての方法

保護命令は、被害者しか申立人となれません。

親族や友人が代わりに申し立てることはできません。

申立書に証拠書類を添えて、相手方の住所地を管轄する地方裁判所、申立人の住所又は居所の所在地、あるいは過去の暴力行為が行われた土地を管轄する地方裁判所に提出します。

保護命令は、単なる調停と異なり、申立書の記載や証拠の提出方法等、専門的な知識や経験がなければ難しいのが現状ですので、DV問題に詳しい弁護士へ依頼されることをおすすめします。

 

手続き
審理期間

通常、裁判は1年ほどかかりますが、保護命令は迅速に審理されます。

個々の事案にもよりますが、平均的な審理期間は、2週間ほどのようです。

 

審尋

通常の場合、まず、申立人本人(弁護士が付いている場合はその弁護士)との面接(審尋)が行われます。

そして、DVの状況について、詳細が聴取されます。

保護命令は、相手方(加害者)の行動の自由を制限することになるので、原則として、口頭弁論又は相手方が立ち会うことができる審尋を経なければ、発令されません。

そこで、通常の場合、裁判所が相手方に呼出状と申立書等の写しが送付され、審尋期日に裁判官が相手方から事情を聴取します。

申立人本人や弁護士は、相手方の審尋期日に同席できますが、申立人本人は、安全確保の観点から出席しないほうがよいでしょう。

 

決定

裁判所は、審尋の結果、事前相談先機関からの回答及び証拠等を総合して判断し、保護命令の申立を認容する決定(保護命令)又は、申立てを却下する決定を下します。

 

④ DVを原因とする離婚手続

DVがある場合の諸手続

DVが理由で相手と離婚したいという場合、親権、養育費、婚姻費用、慰謝料、財産分与、年金分割等を検討し、交渉や調停等の必要な手続きを進めていきます。

これらについて、詳細は当事務所の離婚のホームページをごらんください。

DV事案が他の離婚事件と異なるのは、安全確保の要請が大きいという点です。

離婚手続きにおいて、被害者の方の安全を確保するための方策について、ご説明します。

 

 裁判所への提出書類

保護命令の申立書はもちろん、調停申立書等、裁判所へ文書を提出する際、加害者が読むということを念頭に置かなければなりません。

 

調停申立書

平成25年1月1日施行の家事事件手続法では、調停時の書類について相手方からの閲覧謄写が原則として許可されることとなりました。

そのため、調停申立書の記載内容から、被害者の避難先が推測されないように細心の注意を払うことが必要となります。

例えば、「長男は現在、博多小学校に通っている」などと記載すると、博多に居住していることが分かってしまいます。

 

証拠書類等

被害者(代理人弁護士)が、DVの事実の証拠として、診断書、写真等を提出することが多くあります。

しかし、この場合、診断書の記載から病院名、医師名、居所が判明します。

また、写真の背景から、撮影場所が判明することが考えられます。

また、親権を主張する場合に、子どもの通知票、年金分割を請求する場合には年金分割のための情報通知書を提出します。

しかし、通知票からは子どもが通っている小学校名、年金分割のための情報通知書からは、発行元の年金事務所の名前が判明します。

したがって、これらの書類を提出する場合、居場所を推測される情報の部分を黒塗りする等して提出することがポイントとなります。

なお、年金分割のための情報通知書については、取得する際、「住所を秘匿している」と伝えれば、年金事務所名等を記載しないで発行してくれます。

年金分割の情報通知について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

裁判所内での注意
調停の場合

調停は、原則として本人出頭主義が取られています。

そして、通常、「申立人待合室」(福岡家庭裁判所4階)で待機することとなります。

しかし、この場合、加害者は被害者の待機場所がわかります。

そこで、当事務所では、担当書記官に事情を説明し、別の階の部屋等で待機させてもらえるよう調整しています。

また、最寄りの安全な場所で被害者と代理人が待ち合わせして一緒に裁判所へ行く、調停が終わる際には、被害者の方が相手方よりも先に帰るよう配慮してもらう、等の調整を行なっています。

さらに、当事務所では、相手方の追跡が執拗な場合、安全のため、弁護士だけが出頭し、依頼者には電話で連絡を取るようにすることもあります。

 

訴訟の場合

訴訟の場合、通常は弁護士しか出廷しません。

そのため、加害者からのDVはほとんど心配ないといえるでしょう。

もっとも、当事者尋問の場合、被害者本人も出頭が求められます。

その場合、当事務所では、被害者を別の待合室で待機させたり、加害者と遭遇しないようなルートで待機室に誘導したりしています。

また、尋問に際し、加害者の前では、緊張のあまり証言できないような場合、遮へい措置やビデオリンク方式を裁判所へ上申するようにしています。

 

⑤ 子どもがいる場合の諸手続

DV事件では、お子さんが虐待に遭っているような場合はもちろん、加害者に会わせるべきではありません。

また、お子さんが直接の被害者ではない場合でも、お子さんを通じて被害者の居場所が加害者に発覚することが考えられるので、当面、お子さんも加害者から距離を置くべきです。

そのための諸手続きをご説明します。

 

学校関係

避難先付近の学校に転校させる場合、住民票を移動しないといけないのですか?というご相談を多く受けます。

住民票を移動した場合、加害者からの閲覧謄写を禁止する措置をとる事ができます。

しかし、これに対しては、第三者を通じて住民票を不正に入手する等して、居場所が知られてしまう危険性があります。

そこで、DV被害者の場合、お子さんについて、住民票を移動しなくても、実際に住んでいる市町村の学校に通学させることができるようになっています。

 

 公的扶助の受給
児童手当

DV被害者が子どもを同伴して避難している場合、児童手当を受給できます。

そこで、加害者が受給している場合、受給権者の変更の手続きを行います。

 

児童扶養手当

児童扶養手当は、離婚した場合のほか、父ないし母から1年以上遺棄されている場合に受給できます。

また、平成24年8月に法律が改正され、裁判所から保護命令が出されているときも受給できるようになりました。

したがって、DVが原因で避難したが、まだ離婚が成立していない場合でも遺棄に該当する場合や、保護命令が出た場合も児童扶養手当を受給できます。

 

児童手当、児童扶養手当の額などについては、こちらをご覧ください。

 

保育園等への入所手続き

被害者の女性から、次のようなご相談をよく受けます。

  • 子供を保育園に入れるために、夫から就労証明書を取るように役場から言われているが、夫と連絡を取りたくない。
  • 保育料の算定のために、夫の源泉徴収票の提出を求められている。

このような場合、多くの女性は泣き寝入りされているのが現状です。

しかし、このような役場の対応は明らかに不当です。

被害者の女性が加害者夫から証明書等を入手するのは非常に困難です。

また、生計を一つにしていないのに、夫の収入で保育料を決定するのは不当です。

例えば、加害者夫の年収が1000万円であれば、高額な保育料となってしまいます。

したがって、夫と別居しており、現在離婚協議中であれば、夫側からの書類提出は不要とすべきです。

そこで、当事務所では、このような場合、役場に対し、きちんと抗議し、協議離婚中であることを証明する資料を提出し、保育所への適正な料金での入所を可能としています。

 

⑥ 刑事告訴等を要する場合の手続

被害届、告訴状

DVが暴行罪、傷害罪、強姦罪、殺人罪等に該当する場合、刑事罰の対象となります。

この場合、警察署で被害届を出すか、告訴することも可能です。

被害届は、警察署で所定の用紙に記入します。

告訴する場合、告訴状を作成して警察署へ持っていくのが通常です。

法律的には口頭でも可能ですが、告訴する場合は、弁護士に告訴状の作成と提出を依頼されたほうがよいでしょう。

なお、DVの場合、捜査を進めるかどうかについては、被害者本人の意思を重視しています。

 

刑罰の見込み

量刑については、事案の内容(脅迫、暴行、傷害、殺人)、加害者の前科の有無等によって異なります。

前科がない加害者による傷害事件では、略式起訴となり罰金ですむ場合もあります。

軽微な暴行事件であれば、起訴猶予といって、起訴されずに終了する場合もあります。

重傷を負わせた傷害事件の場合、正式に起訴されると思いますが、その場合でも、前科がなければ執行猶予付きの刑(服役しない)となる場合もあります。

被害者の方は、刑の軽さに落胆するかもしれませんが、再犯の防止という点では効果があるでしょう。

 

刑事裁判

刑事裁判は、検察官が原告の役割をするので、被害者の方が毎回裁判所へ行く必要はありません。

しかし、加害者が犯罪事実を否定するような場合、被害者が公判で証言する必要が出てきます。

この際、被害者が怖くて証言できないような場合、遮へい措置(ついたてを置いて証言)を講じたり、ビデオリンク方式(加害者とは別室で証言し、その様子をビデオカメラで撮影し、公判廷のモニター画面で裁判官等が確認する。)を取ることが可能です。

 

被害者等通知制度

DV被害者は、加害者が起訴されたのか、判決はどうなったのかを確認したい場合、検察から以下の事項について通知してもらうことができます。

  • 事件の処分結果
  • 裁判を行う裁判所及び裁判が行われる日
  • 裁判結果
  • 犯人の身柄の状況、起訴事実、不起訴の理由の概要
  • 有罪裁判確定後の犯人に関する事項(収容されている刑務所の名称・所在地、刑務所から釈放された年月日等)